「いい加減」が「良い加減」に。型破り町中華「中華大吉」が人々に愛される理由

新潟県長岡市、長岡駅近くの繁華街・殿町に店を構える町中華「中華大吉」は、開店時間に定刻がなく、営業は深夜帯のみ。営業中も店のシャッターが閉まっているという独特すぎるスタイルを貫いています。

にもかかわらず、同店は地元の常連客や「面白い店だ」とうわさを聞きつけた観光客が絶えず足を運ぶ人気店です。一体何がお客さんを引きつけるのか――?実際に訪問してみると、その意外な理由が見えてきました。

お客さんが自分でシャッターを開けて入る店

殿町は、居酒屋やスナックが立ち並ぶ大人な雰囲気の歓楽街。店長から指定された20時に店を訪れると、「中華大吉」のシャッターは閉じていました。まだ営業時間(深夜帯)ではないので、当然といえば当然なのですが、なんとこのシャッターは営業中も閉じたまま。客が自分でシャッターを開けてお店に入っていくという、独自のセルフサービスを提供(?)しています。

自分でシャッターを開けて店に入っていく筆者。ただ、熱のこもる夏場は開けっ放しのこともあるそう

「中華大吉」の開店時間は20〜24時と、かなりざっくり。常連さんだけが足を運ぶマニアックな店かと思えば、開店早々に店は満席になり、中には初めて来たというお客さんの姿も見られました。常連さんによると、「いつも満員だから、時間を空けて何回か来てやっと入れる」とのこと。なぜ、こんなに繁盛しているんだ……。

長岡まつりの期間ということもあり、祭りを終えた法被姿のお客さんたちも労をねぎらいにやってきていました

ラーメンを注文後、営業中の様子を伺っていると、すぐに「中華大吉」に流れる独特な空気に気付きました。それは……

ラジオのように延々と喋り続ける、中華大吉 店長の桑原一郎さん

とにかく、店長のトークが止まらないんです。こちらが質問をするスキも見せず、好きなドラマ・俳優の話(テレビが大好きだそうです)、「みんな公務員を目指した方がいい!」という突然のアドバイス、自身の家族の話など、気の赴くままに脈略があるような、ないような話題を連発。

調理から配膳までテキパキと行い、さすがこの道45年とうなるほどのスムーズな身のこなしなのですが、その間も常時お客さんと会話しています。大吉名物のデカ盛り料理を配膳する時の店長渾身(こんしん)のギャグが、またたまらない。

「はい、満タンメン(ワンタンメン)ね。60リッター満タン!」
「多いように見えますけどね……多いんですよ(笑)」
「うちはエンドレスラブならぬ、”麺ドレスラブ”だからね」
「もっと食べる? もう十分だって? 十分ってことは十二分じゃないってこと?」

そうこうしているうちに注文の品が出てきました。あれ、普通のラーメンを注文したつもりが、ボウルに入ったジャンボラーメンが……。聞くと、麺五玉(!)だとか。

この写真を撮影する際も、「出す(提供する)とこ、撮りたい? コストコ撮りたい?」と店長のギャグが炸裂していました

普通のラーメンを頼んで、なぜかこの量。なんと値段は据え置きで、店長がお客さんの様子を見て量を判断されるようです(もちろん少なめにと伝えれば、少なくしてもらえます)。こうしたデカ盛りでも有名な中華大吉ですが、最初から行っていたサービスではないといいます。店長が冗談で大盛りを提供していたのが話題となって、お客さんからの期待が高まり、それに応えるために定着していったのだとか。

そして肝心のラーメンの味は、しっかりおいしい!「クセになる味なんだよね。マスター、これ絶対なんか入ってるでしょ?」「そうそう、食べると急に手が震え出す(笑)」という、お客さんとの掛け合いも最高のスパイスになります。

殿町の飲んべえが最後に行き着く憩いの場

腹いっぱいお客さんに食べてもらいたい、そんな店長のあふれるサービス精神。実は取材中にカップルのお客さんが「これ食べますか?」とシューマイを1つご馳走してくれたのですが(肉々しくておいしかった!)、それも店長がサービスしてくれたものだと聞いて驚きました。なんと慈愛に満ちた町中華なんだ。

盛り盛りのメンマは最高の酒のお供

餃子の量も半端ない。そして、うまいのなんのって

「昔は頼まなくても、料理が出てくるのが通常だったものね」と、ある常連さんは口にします。それに対して「それね、“強引なマイウェイ”っていうの、ゴーイングマイウェイ」と、店長。「もう、(強制的に)食えって言っているようなもの」と常連さんが返すと、「みんな泣いて喜んでたけどね(笑)」とおちゃらけながら、次のように言葉を続けます。

「でもね、昔はみんな大盛りでも全部食べたんだよ。だんだん、最近の子は食べなくなってきてるな。ある意味で、食に満たされているのかもしれないね……」

会話の内容は、正直ほとんどギャグや下ネタでしめられているのですが、時たまシリアスな言葉もポロっと口にする店長。料理のボリュームや味ももちろん魅力なのでしょうが、この店長の人柄に引かれてやってくるお客さんも多いのではないでしょうか。実際に、お客さんに話を聞くと、店長の魅力を誰もが口にします。

「人柄が温かいんですよね。私はいつも店長にいじられるんですけど(笑)、酔っている時って人と話したくなるから、この感じがすごくいいんです。気持ちよくビールが飲めるお店ですね」(カップルで来たお客さん)

「(お店に来たくなる理由は)ご主人ですよ。いろいろと飲み歩いても結局ここに来ないと終わらないんですよね、物足りなくて。ご主人のキャラクターですか?30年前とまったく変わらないです」(30年来の超常連さん)

キンキンに冷えたビールを飲みながら、ラーメンを待つ。なんて最高の締め!

歓楽街で深夜営業ということもあり、飲み歩きの流れでやってくるお客さんが多いよう。中華料理屋というよりも、街のスナックのような位置付けなのかもしれないと思いながらも、お客さんの中には誰とも会話せず一人で黙々とラーメンを食べる方もいます。それでいて決して居心地は悪そうではありません。

酔っ払いと腹ペコたちの止まり木、「中華大吉」。なんとも不思議で魅力的な場所です。

「こだわりがない」という「こだわり」

「俺のこだわりは、“こだわりがない”ことだ!」と豪語する店長。座右の銘は「のれんに腕押し。馬耳東風」と、どこか捉えどころのない不思議な魅力を持っている印象です。

しかし、店長の話を聞いていると、

「本当は公務員になりたかったけど、祖父と父に反対されてあきらめた」
「調理師学校に通っていたら、特に希望してないのに高級料亭の就職が決まった(しかしドタキャン)」
「(独立前にアルバイトをしていた中華料理屋で)修業するつもりはなかったけど、他の従業員が辞めて、自分がなんでもやらされる羽目になったから、技を全部コピーした」
「お店はスナックの居抜きで父親が探してきた。以来ずっと移転していない」

……などなど、確かに風まかせに歩んできた、「こだわりがない」という「こだわり」を体現する店長の生き様を感じられるような気がします。

ノールック・ハイスピードで餃子の餡(あん)を包み続ける。これぞ熟練の技(!?)

そもそもシャッターを閉めて営業をするようになったのも、なりゆきによるもの。創業当初は19時オープンでしたが、近所の会社員が開店時間を待たずに勝手にシャッターを開けて店に入ってくるようになったのがきっかけなんだとか。そのうち、シャッターを閉じたままの営業がデフォルトとなり、現在のスタイルが確立されました。

狙ったわけではなく、いつの間にかそうなっていた、と聞くと「いい加減だ」と思う方がいるかもしれません。でも、その「いい加減」さが、お客さんにとっては「良い加減」になっているように感じました。

お持ち帰りの餃子も、たくさんサービスしてくれました

シャッターは開いていない、営業時間はその日次第。でもお客さんもそのスタイルに怒ることなく、「たまたま入れたらラッキー」ぐらいの心持ち。お客さんと「良い加減」で築けている信頼関係が、多くのお客さんに愛される理由なのではないでしょうか。

取材先紹介

中華大吉
取材・文小野和哉

1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。

写真田淵日香里
企画編集株式会社都恋堂