ランチタイムのオフィス街を中心に需要が高いキッチンカーは、店舗がなくても車1台で開業できることから、従来の飲食店よりも開業のハードルが比較的低いという印象があります。
しかし、事業を軌道に乗せるためには、開業資金や資格取得、各所へ提出する届出の用意、そしてリピーター獲得などの課題をクリアする必要があるでしょう。
これからキッチンカーで開業したいと考えている人に向けて、必要な資金のほか、開業準備の進め方、集客をはじめとする事業を成功させるためのポイントを解説します。
こんな人におすすめ
- 独立してキッチンカーを開業したいと考えている人
- キッチンカーを開業するにあたり、必要な資金や手続き、開業までの流れを知りたい人
- キッチンカーを開業した後で、売上を安定させるためのコツを知りたい人
- 未経験でキッチンカーを開業する際の注意点
- キッチンカーの開業に必要な資金
- キッチンカーの開業に必要な届出
- キッチンカーで開業するまでの流れ
- キッチンカーの開業を成功させるポイント
- キッチンカーのリピーター獲得にはLINE公式アカウントがおすすめ
- まとめ:キッチンカーの集客はLINE公式アカウントで
未経験でキッチンカーを開業する際の注意点
まずは、未経験者がキッチンカーを開業するときに押さえておきたい注意点を見ていきましょう。
開業までに必要な資格や許可を確認しよう
キッチンカーの開業は、食品衛生責任者の資格とキッチンカー、そして保健所の営業許可があれば可能です。
食品衛生責任者の資格は、養成講習会を受講すれば1日で取得できます。また、調理師免許は不要で、普通免許があれば対応する車両総重量までのキッチンカーを運転することが可能です。下記に記載のものは最低限、開業までに準備しておきましょう。
【キッチンカーの開業に必要のものの例】
- 事業計画
- 保健所の営業許可
- 開業資金
- 当面の運転資金
- キッチンカー
- メニュー表や調理器具、食器、食材など
なお、開業手段としては、独立やフランチャイズへの加盟、または既存の飲食店をサテライトとして展開する方法が一般的です。
キッチンカーで全国行脚を検討している場合は要注意
キッチンカーを所持していても、全国を自由に行脚して営業することはできません。キッチンカーの開業には、管轄エリアの保健所の営業許可が必要です。
全国各地での営業には各エリアでの営業許可を取得する必要があり、現実的とは言えません。事前に営業を行いたい地域を選定しましょう。
さらに、拠点とするエリアに加えて、イベント出店の可能性が高いエリアや都市部などの許可も検討すると良いでしょう。例えば、東京や大阪などの都市部ではイベントが多く開催されるので、あらかじめ許可を取得しておくと出店のチャンスが増えます。
キッチンカーの開業に必要な資金
キッチンカーで開業するためには、キッチンカーの調達費や設備の改装費、提供するメニュー開発費などが必要です。ここでは、キッチンカーの開業資金の相場や資金の調達方法を解説します。
開業資金の相場は500万円前後
キッチンカーの開業資金の相場は500万円程度です。中でも、キッチンカーの車両購入や内装・外装は特に費用がかかります。コストを抑える方法として、中古のキッチンカーを購入する、キッチンカーをレンタルするという選択肢もあります。
また、開業にかかる費用だけでなく、当面の運転資金も事前に考慮する必要があります。食材や食器など消耗品の購入費、スタッフの人件費、イベント出店時の出店料といった日常の運営費用も含めて算出しましょう。
下記に、開業費用を500万円とした場合の内訳を一例としてまとめています。
▼ 開業費用が500万円程度の場合の内訳
費用項目 |
金額 |
内容 |
---|---|---|
車両購入費 | 250万円 |
キッチンカーとして利用する車両の購入費。中古車やグレードの低い車両を選ぶことで相場よりもコストダウンが可能。 |
車両の内装設備費 | 50万円 | 調理スペース(コンロ、オーブン、シンク、など)や食器棚、水道管などキッチンカー内の設備費。 |
車両の外装改造費 | 50万円 | キッチンカーの外装デザインに掛かる費用。 |
資格・許可等の取得費 | 5万円 | 食品衛生責任者の資格や保健所の飲食店営業許可などの取得にかかる費用。 |
保険料 | 10万円 | |
研究開発費 | 10万円 | 提供するメニューや調理方法が決まっていない場合は、商品開発のための資金も必要。 |
宣伝費 | 10万円 | 集客のためのチラシ作成やのぼり旗など、各種プロモーションにかかる費用。 |
当面の運転資金 | 150万円 | 人件費、食材費、水道光熱費、消耗品費、出店料、燃料・駐車場代など、日々の営業に必要な支出。 |
※ 各項目の費用はさまざまな条件により変動するため、あくまで参考値
参考:財務局 経済産業局 認定支援機関 資金調達ノート
資金を調達するための3つの方法
キッチンカーを開業する際の基本的な資金調達の方法は、大きく以下の3つです。
- 自身の貯蓄を活用して開業資金を捻出する
- 銀行やその他金融機関からの融資を受ける
- 補助金を活用する
不足金額や状況に応じて、3つの方法を組み合わせて資金を調達します。
1. 自身の貯蓄を活用して開業資金を捻出する
自身の貯蓄を切り崩して、開業資金を捻出する方法です。この後説明する(2)や(3)と異なり、調達のための手続きが不要なので、手元に資金があれば短期間で用意することができます。
2. 銀行やその他金融機関からの融資を受ける
銀行やその他金融機関から融資を受けて資金調達する方法もあります。この場合は、融資先への相談や事業計画書の作成が必要です。開業資金を融資に頼り過ぎると、開業後の返済が負担となることも考慮しておきましょう。
3. 補助金を活用する
キッチンカーの開業資金の調達には、国や自治体の補助金を活用することもできます。例えば、国が実施している「ものづくり補助金*3」や、東京都が実施している「飲食事業者の業態転換支援事業*4」などがあります。これらの補助金を利用することで、自己負担を抑えて資金を調達することが可能です。
キッチンカーの開業に必要な届出
キッチンカーを開業するためには、営業するエリアを管轄する保健所で「飲食店営業の営業許可」の取得が必要です。飲食店営業の営業許可とは、各自治体の保健所が、飲食店の事業主に対して、定められた設備基準を満たしている場合にのみ営業を許可する制度です。
従来は自治体ごとに設備基準が定められていましたが、現在は全国で統一されています。ただし、取得にかかる費用や詳細の条件は自治体ごとに異なる可能性があるため、まずは営業予定を管轄する保健所に営業許可の相談をしましょう。
営業許可を取得する流れは、以下のとおりです。
- 保健所に営業許可申請について相談する(キッチンカーの具体的な仕様や設備、提供するメニューの調理手順や販売方法、さらには販売を予定しているエリアなどを考えておく)
- 申請書類を作成、提出する
- キッチンカーの設備や施設が許可の基準を満たしているかどうかの検査を受ける
- 問題なければ営業許可証が交付され、正式にキッチンカーでの営業を開始できる
なお、営業許可取得後は5年間有効で、その後も営業を継続する場合は更新手続きが必要です。
キッチンカーで開業するまでの流れ
キッチンカーで開業する際は、大きく5つのステップで進みます。ここでは、ステップごとにすべきことや具体的な実施方法について解説します。
1. 計画を立てる
キッチンカーを開業するためには、営業許可の申請、資金やキッチンカーの調達が必要であり、それらの実施事項を進めるための計画を立てなければなりません。
開業計画の基本となるのが、いわゆる事業計画書の作成です。例えば、資金調達として日本政策金融公庫に融資を打診する場合、創業計画書*5を作成・提出する必要があります。この計画書には開業の目的、取り扱う予定のメニュー、販売戦略や方法、さらに資金調達の計画や開業後の収支の見通しを詳細に記述します。
融資を利用しない場合でも、運営途中で困らないよう、事前に販売戦略や収支の見通しを立てることは重要です。自分で計画を立てることが難しい場合は、キッチンカーの開業に関するコンサルタントサービスを利用することも視野に入れるといいでしょう。
2.メニューを決める
キッチンカーで販売するメニューも早い段階で決めておく必要があります。メニューを決めるときには、下記の3つの観点で考えてみましょう。
- 看板メニューを絞る
- 定番メニューで攻める
- 原価率を考慮する
1. 看板メニューを絞る
開業時に提供するメニューを自信のある看板メニューに絞り込むことで、お客さんの印象に残りやすくなり、結果的にリピート客の獲得にもつなげやすくなるでしょう。メニューの数が限られているため、提供までの調理時間や工程を短縮でき、食材のロスが出づらいというメリットもあります。
一方で、メニューの数が多いと、お客さんにとっては選択肢が増えるものの、何をウリにしているお店なのかが分かりづらくなるというデメリットがあります。
2. 定番メニューで攻める
ほかのキッチンカーでも提供されている定番メニューを取り入れる考え方もあります。
初めて訪れた店で食べたことのないメニューに挑戦することは、ハードルが高いと感じるお客さんもいるでしょう。例えば、カレーやピザ、たこやき、串もの、クレープ、メロンパンなどは定番とされており、初来店の方でも受け入れられやすいメニューと言えます。
3. 原価率を考慮する
メニューを考えるときの重要な観点として、原価率は外せません。原価率が高過ぎると、多くの商品を販売しても利益が期待できません。販売したいメニューの原価率が高い場合は、原価率の低いメニューをセットで販売するなど、バランスを取る工夫も必要です。
3. キッチンカーを調達する
メニューや調理・提供方法が決まったら、いよいよキッチンカーの調達です。調達方法には、新車や中古車を購入して改造する方法、すでに改造済みのキッチンカーを購入する方法、レンタルする方法などがあります。
新車や中古車を改造してキッチンカーに仕上げたい場合は2~3カ月の準備期間を見込んでおくと良いでしょう。
ちなみに、元々キッチンカーとして使われていた中古のキッチンカーを調達する場合は、過去に営業許可が下りる程度には設備が整っていることから、許可が下りやすいというメリットがあります。ただし、提供するメニューや出店するエリアによって、設備や仕込み場所のルールが異なります。そのため、どのタイプのキッチンカーを調達する場合でも、事前に保健所に営業許可ルールを確認することは欠かせません。
また、新車、中古、レンタルのいずれにおいても、それぞれにコストや耐用年数といった観点でメリット・デメリットが存在します。初期コストだけではなく、中長期の運用コストも考慮しましょう。
4. 販売する場所を確保する
営業許可が下りた後、スムーズにキッチンカーを開業するためには、開業後に販売する出店場所を確保しておく必要があります。例えば、下記のような方法が一般的です。
- 出店先の斡旋サービスを利用する
- 出店募集に応募する
- 出店したい場所のオーナーや管理元に直接打診する
1. 出店先の斡旋サービスを利用する
「キッチンカーを呼びたい側」と「キッチンカーを出店したい側」が互いに希望する条件を入力することでマッチングできるサービスです。マッチングが成立すると、出店料を支払うことで指定された場所での出店が可能となります。
2. 出店募集に応募する
応募の際は、お祭りや音楽フェスをはじめとするイベントの主催者が告知する募集を、SNSやWebなどで見つける必要があります。そのため、情報を見逃さないように定期的にインターネットをチェックしたり、大型イベント情報を確認したりと、常にアンテナを張っておきましょう。
3. 出店したい場所のオーナーや管理元に直接打診する
オーナーや管理元に直接打診する場合は、まず出店を検討している場所をリストアップすることから始めます。その後、リストアップした場所のオーナーや管理者に連絡をとり、直接提案・交渉します。
5. 保健所で営業許可を取得する
キッチンカーの営業を始めるためには、販売する地域を管轄する保健所での営業許可の取得が必要です。営業許可が交付されたら、ようやくキッチンカーで営業を開始できます。
営業許可のルールとして、取得した許可証は常に営業中に携帯しておく必要があります。また、仕込み場所を別途用意する場合は、その場所についても営業許可が必要です。
営業許可証が交付されたらスムーズに営業を開始できるように、交付前から準備を進めておくことが重要です。例えば、メニューや看板の用意、食材や容器の仕入れルートの確保、調理に必要な機器の準備など、開業前にできる準備は極力済ませておきましょう。
キッチンカーの開業を成功させるポイント
キッチンカーが無事に開業できても、その後の営業が軌道に乗らなければ継続は困難です。ここでは、営業を軌道に乗せるためのポイントを解説します。
1. 売上が見込める出店場所を複数見つける
キッチンカーでの営業を軌道に乗せるためには、安定した売上が見込める出店場所を複数持っておくことが重要です。複数の場所を確保することで、リスクを分散させることができます。
出店場所の選び方としては、基本的には3C(Customer、Competitor、Company)の視点を持ち、自店の強みを生かせて、将来的に売上が増えそうな場所を選び育成していくことが重要です。
例えば、男性会社員が好むランチを看板メニューとし、ターゲットとなる男性会社員が多くいるオフィス街に出店を検討している場合、平日に固定で出店することで顧客に覚えてもらい、リピート化を狙うことができます。
売上が順調な場所があったとしても、いずれ使えなくなるときが来るかもしれません。また、売れやすい場所は競争率も高く、すぐに同じような出店場所が見つかるとは限りません。複数の出店場所を持ち、それぞれの場所で売上を安定させることを目指しましょう。
2. 作業効率を上げて回転率を高める
キッチンカーで利益を出すためには、提供までの作業効率を上げ、回転率を高めることが重要です。特にオフィス街のランチタイムのようなピークタイムに提供のスピードが早いと、お客さんからの評価も高まります。また、回転率を上げることは売上額の向上にも直結します。
具体的に作業効率を上げるためには、主に調理・会計・提供における各工程のオペレーションを見直します。
調理工程の効率化
キッチンカー内の動線を最適化することが求められます。スムーズに動ける設備の配置や、食材・調理器具の位置の工夫、そして十分な作業スペースを確保することが大切です。仕込みの段階で調理工程を減らすことも効率化に寄与します。
会計の効率化
会計時のやり取りにかかる時間・手間をできるだけ削減するために、キャッシュレス決済の導入は有効です。ただし、専用の機器や決済手数料というコストが発生し、さらに入金に時間がかかることによるキャッシュフローへの影響は考慮しておきましょう。
提供の効率化
商品を提供するときに、どこまで対応するかによって提供時間は変動します。例えば、カトラリーやトッピングをセルフサービス方式にすることで、スタッフの作業時間を削減し、調理により多くの時間を確保できます。
3. SNSやLINE公式アカウントを活用してリピーターを獲得する
キッチンカーは固定の店舗を持たないため、営業時間や営業場所の情報を常に発信する必要があります。また、一度購入してくれたお客さんに再度利用してもらうためにも、積極的なコミュニケーションが重要になるでしょう。
そのため、事前にお店の情報を発信できるSNSアカウントを開設し、準備の段階からお店のアピールを兼ねて情報発信しておくといいでしょう。営業が始まったら日常的に出店情報を告知し、当日のメニューやこだわりのポイントなどを投稿するのがおすすめです。
また、営業開始後はLINE公式アカウントの活用も効果的です。一度購入してくれたお客さんに友だち追加をしてもらうことで、直接メッセージを送ることができます。SNSのように出店情報や当日のメニューを発信するだけでなく、ショップカードの発行やクーポンの配布といったLINE公式アカウントならではの機能でお客さんの再利用を促すことが可能です。
キッチンカーのリピーター獲得にはLINE公式アカウントがおすすめ
LINE公式アカウントには、リピーター獲得につながる機能がいくつも備わっています。ここからは、LINE公式アカウントの活用方法を簡単に紹介します。
1. LINEチャット
友だち追加をしてくれたお客さんと、普段使っているLINEと同じように個別にチャットをすることができるため、お客さんからスムーズに注文を受けることができます。また、来店のお礼を個別に伝えることも可能です。
2. メッセージの一斉配信やステップ配信
友だち追加をしているお客さん全員に、メッセージを一斉配信できます。キッチンカーの出店場所や営業時間などをはじめ、キャンペーンや新メニューの告知にも活用可能です。
また、友だち追加をしてもらった際にお礼を送ったり、あらかじめ用意していたメッセージを任意のタイミングで自動配信する「ステップ配信」も活用できます。
3. リッチメニュー
LINE公式アカウントのトーク画面下部に、固定のメニューを設置することができます。ポイントカード(ショップカード)やクーポンを設定しておくことで、お客さんがトーク画面を開いたときにいつでも目に入るようになります。
4. クーポン機能
お店で利用できるクーポンを、メッセージで配信することができます。リピーター獲得に加えて、キッチンカーの外に「友だち追加をしてくれた方にクーポンを発行中」といったPOPを掲出することで、新たな友だち追加の促進にも活用できます。特に、常連客が少なく、お店の認知度が低い開業後に効果的な施策です。
5. ポイントカード(ショップカード)
利用ごとにポイントが貯まるショップカードの作成も可能です。ゴールまでのポイント数やポイントの条件もこまめに設定できるので、まずは数回で獲得できる特典を用意しておくことが運用のコツです。
LINEは、2023年3月末時点での月間利用者数が9,500万人(2023年6月時点)で、多くの見込み顧客やリピート顧客とコミュニケーションが取れるツールです。低コストで開設・利用できるので、まずはハードルの低い施策を試したいという人は導入を検討してみましょう。
まとめ:キッチンカーの集客はLINE公式アカウントで
キッチンカーの大きな魅力は、場所や時間を選ばない柔軟性にあります。また、お客さんとの距離が近いため、日々の成果や反響をダイレクトに感じることができる点も特長です。
一方で、実際にキッチンカーでの営業を開始するまでには、資金やキッチンカーの調達、さらには営業許可の取得といったさまざまな準備が必要となります。そして、開業後は固定の店舗を持たない分、出店場所の告知やリピーターの獲得がビジネスの成功を左右する要因となるでしょう。
LINE公式アカウントは、開業後の集客施策に活用できるほか、リピーター獲得に役立つ機能が備わっています。詳細は以下から確認してください。
*1:提供した飲食物によりお客様に損害を与えた場合に補償を受けけられる
*2:提供サービス以外の原因でお客様や出店先に損害を与えた場合に補償を受けられる
*3:出典:ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト