入念な立地分析でニーズに応え、年商1億円超企業に!「えびかずら」店主に聞く、多店舗展開が成功した理由

新宿から電車で30分。東京都東村山市栄町にある久米川駅周辺には商店街が栄え、都心で働く人たちのベッドタウンが広がります。株式会社LIMANDE代表の小池健一さんは、久米川駅周辺に3店舗の居酒屋と1軒のバーを展開。このエリアで思い切ったドミナント戦略を実施した結果、年商1億円を超える企業へと成長しました。なぜ久米川を多店舗展開の拠点として選び、どのように収益構造を設計しているのでしょうか。繁盛店を生み出す秘けつに迫りました。

「居酒屋需要の高さ」と「賃料相場の低さ」が立地選びの決め手

小池さんが久米川に開業したのは2018年3月。久米川駅から徒歩2分の場所に、1店舗目の居酒屋「なるくちや えびかずら」をオープンしました。オープン後まもなく月商400万円の繁盛店となると、店は連日満席に。店に入れなかったお客が代わりに利用できるような店をと、翌年2019年5月、近隣に「博多肉巻き串とサワーの店 うまたゆ」を出店しました。その後、コロナ禍による時短営業や酒類提供の自粛などを余儀なくされた期間があったものの、社員が活躍できる場を増やすために、2023年7月に住所非公開の紹介制プライベートバー「『』(カギカッコ)」を、その2カ月後の2023年9月には魚料理を中心とした「炉端ましかく」をオープン。現在、久米川エリアだけで4店舗を展開しています。

バーテンダーとして飲食業界のキャリアをスタートさせた後に、東京・国分寺を中心に地域密着型の店舗展開を行う「猿屋一家」で店舗の立ち上げや立て直しを中心に約5年勤務し、独立した

そもそも、都内にはさまざまな街がある中、なぜ久米川を選んだのでしょうか。きっかけは、小池さんが以前、久米川にある飲食店のコンサルティングを行っていたことでした。

「定期的に久米川に足を運ぶようになって、久米川駅周辺には深夜帯に営業するバーやスナックが多いことに気が付きました。深夜帯の営業店が多い場合、その利用前後に食事する店として居酒屋も繁盛しやすいんです。また、都心からそれほどアクセスが悪いわけではないにもかかわらず、久米川は土地の価格が安い。20年ほど飲食業界に身をおいた経験と勘から、ここはいけるとピンときました」

実地調査で街の特徴をつかみ、価格帯やコンセプトを設計

小池さんが考える、繁盛する店舗づくりの基本は、徹底してその土地を知ることから始まります。久米川に白羽の矢を立てた小池さんは、地域のニーズに合ったコンセプトの店を探るべく、街でリサーチを行いました。

「駅前のベンチに座り、PCを開いて1日中行き交う人の観察をしました。どんな年齢層が多く、どんな時間帯に、どんな目的で、どんな楽しみ方をしているのか。平日、休日の2回ほど調査しました。そして僕自身、徹底的に久米川の街を飲み歩きました。久米川ではどのような店が繁盛し、どのような店が不足しているのか。自分で直接足を運び、地元の人と一緒に飲んで話すことで、より解像度を上げてその街を理解することができるんです」

リサーチを進めていくうちに、久米川周辺は学生が少ないこと、その一方で都心へのアクセスが比較的良く家賃相場も低いことから、会社勤めの人が多く住んでいることが分かったといいます。さらに、飲み歩きで仲を深めた近隣住人たちとの会話を通じて、久米川には飲食店が数多くあるものの、デートや記念日など特別な日の利用を想定した高価格帯の店が少ないことにも気が付きました。

「学生よりも会社勤めの人が多いため、価格帯はそこまで抑えなくてもやっていけると判断しました。それよりも大切なのが、店の雰囲気です。久米川に住む人がちょっと特別感を味わいたい時に足を運べるような、上品さや高級感を感じられるようなおしゃれな店があったら良いのではないか――ぽっかりと空白地帯を見つけたような思いで、そこにチャンスを見出しました」

実地調査から価格帯やコンセプトを導き出した1店舗目の「えびかずら」は、想定通り近隣住人のニーズと合致しました。リサーチ時に関係を構築した地域住民の方をはじめ、開店早々にたくさんの人が来店。口コミを通して評判が広がり、やがて月商400万円超えが続く繁盛店になりました。

立地よりも賃料比率の低さを重視!固定費の削減で利益率を安定

小池さんは「起業するからには会社として人を雇用し、多店舗展開するのが当初からの夢だった」と語ります。1店舗目オープン後、2店舗目、3店舗目の出店も見据えていましたが、そこには当然、戦略が必要です。

「個人店として1店舗のみ経営する場合は、収益構造をそれほどつくり込まなくても、店長の人柄や技量によっては、繁盛させることができます。一方、人を雇用して多店舗化する場合は、スタッフの人柄や技量に左右されない収益構造をしっかり組み立てる必要があります」

また、収益構造を設計する上での大きなポイントは、立地の良さよりも固定費である賃料を抑えることだと小池さんは力説します。国分寺から電車で20分ほどの距離ですが、久米川の坪単価は、国分寺周辺の坪単価と比較して3分の2程度の金額に収まります。2店舗目の「博多肉巻き串とサワーの店 うまたゆ」も、坪単価7,000円台という圧倒的な賃料の安さ。売り上げに対する賃料比率は圧倒的に低く、そのぶん利益率を押し上げる要因にもなっています。

「飲食店の賃料は売り上げに対して10%以下が理想的といわれていますが、『うまたゆ』の家賃は売り上げに対して2~3%ほど。賃料比率は収益構造を大きく左右しますが、僕が手掛ける4店舗はすべて坪単価10,000円以下と手ごろです。集客や売り上げに注目するだけでなく、長く経営を続けていくには賃料を抑えるべきですね。

今やSNS上で店のことを自由に発信できるので、以前より立地はそれほど重要ではなくなってきています。目立つような立地や大きな看板を掲げなくても、口コミやSNS経由でお客さまは足を運んでくれるはずです」

原価を抑え利益を追求しても、サービス精神は忘れない

収益構造においては、メニューづくりも大事な要素の一つ。売り上げに対し、原価をいかに抑えて利益を生み出すかがポイントです。

「うまたゆ」のメインに据えたのは、見栄えが良く、1本220円前後で満足度の高い肉巻き串です。全40種類と豊富で飽きずに食べ続けることができます。仕込みの手間暇はかかるものの、原価自体はそれほど高くありません。

「うまたゆ」の売りである、肉巻き串は約40種あり、さまざまな味を楽しめる。添えてあるキャベツは「最後までお酒のつまみとしておいしく食べられるように」と味が付いている

また居酒屋3店舗共通の定番メニューとして、輪切りレモンをグラスにぎっしり詰め込んだ「レモンだらけサワー」を提供しています。“中”だけのおかわりも可能なこちらのドリンクは、10秒でおかわりを出せるスムーズなオペレーションが成り立つため、お客と店の双方にとってうれしいメニューです。

「僕自身がせっかちな性格で、オーダーした商品をあまり待ちたくないんですよね。だからお客さまにもなるべく早く提供できるように、何か工夫をしたいと思いました。そこで、人が少なくても効率的に素早く提供できるメニューとして考えたのが、『レモンだらけサワー』。輪切りレモンがグラスにぎっしり詰まっているため、3〜4回は“中の”おかわりのみでレモンサワーを楽しむことができ、お客さまに喜ばれています」

店のドリンクメニューの中で人気が高い「レモンだらけサワー」

一方で、「店が愛されるためには、利益にとらわれすぎないサービス精神が大切」と小池さんは主張します。

「久米川は繁華街ではないので、他の街と比べ、会社帰りに立ち寄ったり、友人同士で集まったりする機会が多い場所ではありません。客層としてボリュームがあるのは、やはり近隣に住む方です。するとこの街で繁盛するためには、近隣住人のリピーターを増やすことが大切です。もう一度足を運びたいと思ってもらうためには、徹底した収益構造を確保した上で、お客さまに寄り添ったサービス精神も必要なんです。

基本的にうちのメニューは心もお腹も満足できるように、たっぷりとした盛り付けを心がけています。人数とお料理の個数が合わない時は、少しサービスして増やすことも。そうしたお客さまへのちょっとした心遣いが、店が愛され続けるためには何より大切だと思います」

「えびかずら」「うまたゆ」の常連客からの「色々な料理を少しずつ楽しめる店がほしい」というニーズを反映した「炉端ましかく」では、炊き込みご飯をお土産にして持ち帰れるサービスがある

さまざまなシーンに柔軟に対応する店舗設計でリピートを狙う

最後に、小池さんは多店舗化におけるポイントとして、店舗の“箱”の部分、つまり外装・内装の重要性を語ります。

「人材の質ももちろん大切ですが、店の魅力がスタッフのパーソナリティーに依存してしまうと、売り上げが安定しないんです。飲食店でも、お客さまが店ではなく人に付くことがあります。その場合、その人が退職や他の店に移籍すると、売り上げが下がってしまいます。

そこをカバーするのが店舗にとって普遍的な部分といえるのが “箱”、つまり外装・内装の部分です。うちで言うと、天井を低くし、隠れ家的な雰囲気を演出した『えびかずら』、宴会需要を踏まえ、大人数を収容できるような店舗設計にした『うまたゆ』、原始焼きをカウンターで囲み、ライブ感のある空間づくりをおこなった『ましかく』……それぞれ特徴は異なりますが、どの店も雰囲気が良く、つい長居してしまうような空間デザインになるように工夫しました。3店舗共通して意識しているのは、デートや接待のシーンを想定して、間接照明を効果的に取り入れたり、店の奥まったところにプライバシーを重視した半個室を完備したりなど、心理的に安らぐ空間にすること。さらにカウンター席とテーブル席も用意し、お客さまの利用シーンに幅広く対応できるようにしました。お客さまが特別な日に足を運びたくなるような魅力的な内観であることは、店の強みになります。スタッフが変わってもお客さまが離れないよう、僕は必ず外装・内装からお金をかけると決めているんです」

「なるくちや えびかずら」は、看板はないが、どこか心ひかれる店構え。看板がないことで、ひとたび口コミで広まれば、“ああ、あの看板のない店ね”と逆に認識してもらいやすいのだそう

3店舗目の「炉端ましかく」。商店街の外れに突如として現れる、デニム生地の大きなのれんがかかるシックな外観

「えびかずら」の店内はコンクリート壁で洞窟のような趣。間接照明に照らされたカウンター席の木の温もりが同居する、落ち着いた大人の空間

「えびかずら」からお客があふれてしまったために出店した「うまたゆ」では、宴会需要も鑑みて40名程度の大人数を収容できる構造に

多店舗展開の経験を生かし、他エリアでの展開を見据えたい

久米川エリアに4店舗(居酒屋3店舗+バー1軒)を展開することでグループ店舗同士が競合し合う可能性もありますが、小池さんはその点も前向きに捉えているようです。

「店同士がライバル関係になるのは良いことだと思うんです。店の成長のためには、店長を含めそれぞれの店のスタッフが、時には経営者目線で収益構造を理解し、利益を生んでいくことが大事。もしライバル店に及ばず悔しかったら、より集客力を高め質の良いサービス提供をみんなで考え、強化していけば良いのです。

とはいえ、今後は久米川にとらわれず、ほかのエリアでの出店も考えています。競合しないような店をマーケティングすることも僕の役目だと思うので、リサーチを続けて、新たな可能性を持つ”穴場エリア”を発見していきたいですね」

久米川という土地のメリットを再発見し、多店舗展開を成功させた小池さん。次はどんな街にどんな店を構えるのか、今後の展開にも注目です。

取材先紹介

なるくちや えびかずら
博多肉巻き串とサワー うまたゆ
炉端ましかく
取材・文味原みずほ

敬食ライター。B級グルメから星付き店まで都内レストランを中心に取材・執筆。料理人をはじめ生産者、料理研究家、ブルワー、マルシェ出店者へのインタビューなど食・農のフィールドで活動中。

写真田淵日香里
企画編集株式会社都恋堂