東京を中心に300店以上のガチ中華を食べ歩いてきた会社員の阿生さん。新規開拓だけでなく、海外赴任から帰国した後にすぐに駆けつけたというなじみのお店もあるそう。そんな阿生さんが考える「通いたくなるお店」の共通点とは。
はじめまして。ブログやXなどで東京を中心にガチ中華のお店情報を発信している阿生(あせい)と申します。2017年頃から都内近郊で増え始めた「ガチ中華」にハマり、現在は会社員として働く傍ら、新たにオープンした中華料理店を食べ歩いています。2023年からは仕事で香港に赴任。毎日中華三昧の1年を過ごし、2024年9月に帰国しました。
今回は、「なぜガチ中華にハマったのか」「そもそもガチ中華とは何なのか」という点を踏まえ、お気に入りの3店を紹介しながら「私がどんなお店に通いたくなるのか」を掘り下げてみたいと思います。
- 私が「ガチ中華」に惹かれたワケ
- ガチ中華=日本にローカライズされていない中華料理
- 阿生流「ガチ中華」の探し方
- 海外赴任から帰国後、すぐに駆け付けたほど好きなお店3軒
- 通いたくなる店には「オーナーの優しさと料理へのこだわり」がある
私が「ガチ中華」に惹かれたワケ
大学生だった2016~2017年、中国・上海に留学しました。四川省や広東省、福建省など中国各地を訪れるなかで、日本で食べられるものとはまったく異なる中華料理の奥深さに魅了されました。
帰国した2017年頃から、通っていた大学近くの池袋や高田馬場周辺に、中国にあるチェーン店や現地さながらの雰囲気のある中華料理店が増え始め、留学中を懐かしむ気持ちからよく食べに行くようになりました。
一方、新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、好きな海外旅行にも行けなくなったので、これまで食べに行ったお店や新たにオープンしたお店の情報をブログで発信し始めました。
すると、「日本国内にいながらも海外気分を味わいたい」といった人が読んでくれるように。
また、コロナ禍で閉店した各地の飲食店跡地に中国人が中華料理店を出店し、お店の数が急増。お店が増えれば、その情報をWeb上で調べる人も増えていきます。こうしたことが重なって、私のブログが徐々に注目されるようになりました。
ガチ中華=日本にローカライズされていない中華料理
この頃から、Webメディアで寄稿するようにもなり、これまで紹介してきた“ガチ中華”を「日本人向けにアレンジされていない、まるで中国にいるかのような気分を味わえる中国人向けの料理」と認識して発信するようになりました。
そもそも「中華料理」というワード自体、日本人向けにアレンジした中国の料理に使われる場合が多いのですが、当時、大衆向けの中華料理が「町中華」として注目されていたこともあり、「町中華」をもじった「ガチ中華」の語呂の良さがウケたのかもしれません。
「町中華」と「ガチ中華」、一番の違いは日本人向けのアレンジの有無ではないかと思います。日本人のお客さんをターゲットにしていると、どうしても辛さをマイルドにしてしまったり、現地で使われる食材を日本人に馴染みがある具材に置き換えてしまったりと料理をアレンジすることが少なくありません(もちろん、そういった中華料理もおいしいのですが)。
一方で、ガチ中華の店は、店内に入った瞬間から中国語での接客が始まり、中国語がメインで書かれたメニューを渡され、中国で食べていた懐かしい料理が出てきます。
おいしい店もありますが、たまに大外れの店を引いてしまうことも。ガチ中華は郷土色豊かな料理の数々です。ただ、中にはオーナーの出身地でないエリアの料理を提供していて、食べ慣れた人からすると「現地で食べたものより少し味が落ちるな……」と感じてしまうお店もあります。
そんな体験も含めて、まるで中国にいるのではないかという気分にさせてくれるのが、ガチ中華の魅力ではないかと感じています。
阿生流「ガチ中華」の探し方
2017年頃からガチ中華の店を食べ歩き、2023年の香港赴任までに、のべ300軒以上のお店を訪れました。特にコロナ期間の前後は新店のオープンが続いたこともあって、ガチ中華の新規開拓がライフワークのようになりました。
そんな中、頻繁に聞かれるようになったのが「どうやって新しくオープンした店を探しているの?」という質問です。探す方法はいくつかあるのですが、主に2つです。
1つ目は、写真や動画が豊富で「中国版Instagram」とも呼ばれるRED(小红书)というアプリを活用することです。新しい店に行った在日中国人のレビューポストや、店舗オーナーによる新店開店の告知ポストを見て、実際に足を運んでいます。
InstagramやX(旧Twitter)などもそうですが、最近のSNSは自分がよく見ている投稿の傾向をアルゴリズムが学習し、似たような内容の投稿をタイムラインに表示してくれます。REDも同様で、ガチ中華のポストを見ていると、多くの新店情報を得られるようになっていきました。
2つ目は、ガチ中華界隈の中国人からの紹介です。ガチ中華の店に行くと、中国人オーナーと知り合いになります。すると、そのまた知り合いから「新店をオープンするよ」と教えてもらうことがあるのです。数年前からは、ガチ中華の店へのメニュー端末導入をサポートする企業の中国人と親しくなり、新店情報を教えてもらうことが増えました。
2020年〜2022年頃は特に、雨後の筍のような勢いでガチ中華の店が増えていきました。数多くの店を訪れるなかで、オーナーが「地元の料理を食べてほしい」と開いた店、近年の中国のトレンドを取り入れた店、ガチ中華が流行っているからその流れに乗るべく出店した店など、出店プロセスに関していくつかの傾向があることも見えてきました。
私自身は、オーナーが何かしらのこだわりを持って郷土料理を提供している店が好きです。オーナーのこだわりを聞きながら、中国の思い出が詰まった料理を食べる。そんな時間がガチ中華発掘の楽しみやモチベーションになっています。
さて、ここからはこれまで東京で食べ歩いたガチ中華の中から、私が香港に滞在していた頃もずっと「早く食べたい……」と恋しく思っていたお気に入りの3店を、その理由と看板メニューとともに紹介したいと思います。
海外赴任から帰国後、すぐに駆け付けたほど好きなお店3軒
これぞガチ中華的「汁なし麺」! 本場のおかずをオーナーの優しさとともにトッピングして楽しめる「陝西面館(センセイメンカン)」(東京・高田馬場)
はじめに紹介するのは「陝西面館」。兵馬俑で知られる西安を省都に持つ陝西省の郷土料理「ビャンビャン麺」が食べられるお店で、2023年にオープンしました。
カウンターが10席程度の小さなお店ですが、ランチタイムや夜の時間帯は中国人だけでなく、イスラム圏のお客さんも多く、混み合っています(ビャンビャン麺はハラル料理でもある)。
ビャンビャン麺は日本でも近年インスタント麺や冷凍麺が発売され、認知度も上がってきています。独特の平たい麺が特徴の汁なし麺で、唐辛子や花椒などの香辛料が効いたタレや肉味噌、トマトとたまごの炒めなど、さまざまな具材と混ぜ合わせながら食べます。
「ビャンビャン」という特徴的な料理名の由来は、平たい麺を打つとき、生地を台に叩きつける音が“ビャンビャン”と鳴っているように聞こえる、という音に関係する説や、中国語で平たいを表す“扁扁(ビアンビアン)”がなまってビャンビャンになった、という見た目に関係する説など諸説あります。
さて、お店のメニューを見てみましょう。「トマトとたまごの麺」「牛肉ジャージャー麺」「牛肉角煮麺」など、どれもおいしそうな料理名が並んでいます。迷ってしまいますが、個人的にはその3種が贅沢に全種入った「三合一麺」がおすすめです。
酸味が効いたトマトとたまごの炒めや、たっぷりの肉味噌を麺によくかき混ぜて食べれば、気分は西安旅行。テーブルに置いてある黒酢をひとかけして、さっぱりめに味変するのもおすすめです。
3種のトッピングがそれぞれどんな味なのかを試してから、気に入ったものがあれば次は単一版で頼んでみる、という注文の仕方がいいのかもしれません。
日本語学校や中国人向けの学習塾が集中しており、住民にアジアの若い学生や中国人留学生が多く、彼らをターゲットにしたガチ中華の店が近年急増している高田馬場。ビャンビャン麺が食べられるお店もいくつかあるのですが、それでもこのお店に通ってしまうのは本場さながらの味だけでなく、「オーナーの人柄のよさ」にあります。
私が留学中に西安に旅行に行ったことがあると話すと、それだけで喜んでくれて漬物をサービスしてくれたり、陝西省の自慢の麺を日本人にも食べてほしいと話してくれたりと、お店を訪れるたび温かい気持ちになります。
先日も香港から帰国後、久しぶりにお店に訪れると、まだ私のことを覚えてくれていたり、その他のお客さんとも積極的にコミュニケーションをとったりと親しみのある接客は健在でした。
Google Mapの口コミにも「オーナーは日本語があまり話せないけど、優しくしてもらった」というようなコメントが数多く投稿されていて、日本人か中国人かを問わず、オーナーがお客さんに優しく接していることが想像できます。味だけでなく、このオーナーの優しさも多くのリピート客を生んでいる理由と言えるでしょう。
酸味、苦味、辛味が織りなす中華の“新境地”。奥深くマニアックな貴州料理が堪能できる「王さん私家菜」(東京・御徒町)
次に紹介するのは「王さん私家菜」。中国の南西部に位置し、苗族(ミャオ族)や侗族(トン族)などの少数民族が多く暮らす貴州省の料理が食べられるお店です。
貴州省は中国に出張・駐在していた人なら飲んだことがある人も多い、貴州茅台酒(きしゅうまおたいしゅ)など白酒の産地として有名。そんな貴州の料理の特徴は、唐辛子の辛さと野菜や豆などの発酵食品由来の酸味です。
留学中に初めて貴州料理を食べたときに、発酵食品の酸っぱさと辛さ、その奥深い味わいに魅了されました。
王さん私家菜でも、そうした日本ではなかなか食べられない貴州料理を楽しむことができます。
王さん私家菜は、近年ガチ中華の急増地帯になってきた上野・御徒町エリアにありますが、どちらかといえば日本人をターゲットにしているような雰囲気の外観で、比較的入りやすいかもしれません。
メニュー表を開くと「麻婆豆腐」や「焼き餃子」「炒飯」など、いわゆる町中華的な日本人にはおなじみのメニューが並びますが、ここはグッと我慢して、壁に貼ってあるメニューを眺めてみましょう。というのも、通常のメニュー表に貴州料理は記載されておらず、裏メニュー的な位置付けで壁に貼られているのです。
貴州でよく食べられる「ドクダミの根と干し肉の炒め物」や、唐辛子と鶏肉を炒めた四川式のものとは違って、鶏肉がたっぷりの辣油に浸かっている「辣子鶏(ラーズーチー)」、発酵させて酸味を引き立たせたトマトがベースのスープと白身魚の相性が素晴らしい鍋料理の「酸湯魚(スアンタンユイ)」はぜひ頼んでみてほしい一品です。
独特の酸味や辛味、苦みが織りなす複雑で奥深い味わいはこれまで食べていた中華料理とはまた違った世界を見せてくれます。
オーナーの王さんは厨房にいることが多いですが、貴州料理について聞くと詳しく教えてくれ、人当たりのよさを感じます。また、王さんの貴州料理へのこだわりも魅力的で、日本ではなかなか味わえない特徴的な酸味や辛味を求めて王さんの料理を食べに行くファンが絶えません。
麻辣ではなく“香辣”。花椒と唐辛子の「香り」を心ゆくまで楽しませてくれる「香辣妹子(シャンラメイズ)」(東京・西巣鴨)
最後に紹介するのは、日本人にも馴染みのある四川料理のお店「香辣妹子」。
都営三田線の西巣鴨駅やJR埼京線の板橋駅から徒歩で5~10分程度と少し駅から離れた路地裏にひっそりとたたずむお店です。
ここでは、ニンニクの芽や自家製の干し肉を使った四川式の「回鍋肉」や、唐辛子と揚げた鶏肉を炒めた「辣子鶏」、自家製の「四川式ソーセージ」などが楽しめます。
花椒のしびれを表す「麻」と唐辛子の辛さを表す「辣」を組み合わせた「麻辣(マーラー)」という中国語。日本人の間でも浸透してきており、花椒の痺れがクセになる人も多いのか、いまや麻辣を謳うカップ麺やスナックなども数多く発売されています。
首都圏でも、麻辣を全面に押し出した四川料理の店が増えてきました。
「香辣妹子」でもそうした麻辣な料理が食べられますが、オーナーの王さんに言わせれば、「香辣妹子の料理の特徴は店名にもある香辣(シャンラー)にある」そうです。
香辣の「香」は文字通り「香り高い」という意味で、香辣は香り高い辛さ、というような意味になります。ただしびれや辛味が効いているだけでなく、唐辛子や花椒といった香辛料のスパイシーな香りも含めて楽しめるというわけです。
たしかに、香辣妹子の料理を食べてみると、意外にも辛さは(他の四川料理の店と比較すると)控えめ。特に前述した回鍋肉や辣子鶏などの炒め物は、辛さよりも唐辛子の香りが引き立っています。
オーナーの王さんは食事中でも気さくに話しかけてきてくれて、中華圏に親戚がいたらこんな人なんだろうなと思わせてくれるような人懐っこい性格。この居心地の良さも、アクセスの悪さを差し引いても定期的に行きたくなってしまう理由の一つです。
ちなみに、お店で手作りしている辣油や、四川式のソーセージは、テイクアウト用も販売しています。特に辣油は一度調味料として利用すると常備しておきたくなる逸品です。
なお、池袋や立川などにある、中華料理が食べられるフードコート「友誼食府(ゆうぎしょくふ)」にも出店していて、一部のメニューはフードコートでも食べることが可能です。
通いたくなる店には「オーナーの優しさと料理へのこだわり」がある
以上、お気に入りのお店を3店紹介しました。
料理の系統こそ違いますが、どのお店のオーナーも地元の料理にこだわりと情熱を持っているところ、加えてお客さんへのリスペクトや優しさを忘れないところが共通しているように感じています。
こうしたマインドを持って営業しているお店には国籍を問わずお客さんが集まっていくのではないかと思います。今後も魅力的なお店との出合いを楽しみにしながら、ガチ中華を開拓していきたいです。
あの人の通いたくなるお店は?
【著者】
阿生さん
会社員。大学時代に上海へ留学し、本場の中国料理にハマる。帰国後は都内を中心に「ガチ中華」の店を食べ歩くように。その記録をまとめたブログ「東京で中華を食らう」が人気を呼び、現在はライターとしても活動中。
Web:東京で中華を食らう
Twitter:@iam_asheng
Instagram:@asheng_chuka
編集:はてな編集部