声優界の大食い女王・小松奈生子に、お腹も心も満たしてくれる「デカ盛り店」の特徴を聞いてみた

年間140回以上も「デカ盛りグルメ」を食べ、「声優界の大食い女王」の異名をとる小松奈生子さんが通うお店とその共通点についてお話を伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる“おなじみさん”は、飲食店にとって心強い存在です。そうした常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。また、お客さんから見てどういうお店が「通いたくなるお店」なのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、自他共に認める「大食い」の声優・小松奈生子さん。「デカ盛りグルメ」にかける情熱は凄まじく、片道2時間以上かけ「遠征」してお店を訪れたり、わずかな仕事の合間を縫って「デカ盛り店」に通いつめたり。そんな小松さんが感じるデカ盛りグルメの魅力、そして通いたくなるお店の特徴とは。

小松奈生子さん

4月3日生まれ、宮城県出身の声優。主な出演作には、アニメ「Dr.STONE NEW WORLD」(サガラ役)や、「終末のワルキューレ」(イヴ役)などがあり、海外ドラマ「私たちの人生レース」では主演の吹き替えを務めている。

デカ盛りこそ「ビジュアル」が命

――今日取材で訪れている「ごちそう家 ぽん太 八丁堀店」は、小松さんがデカ盛りグルメにハマるきっかけにもなったお店だそうですね。今もよくいらっしゃるんですか?

小松奈生子さん(以降、小松さん):よく来ますね。ランチメニューのソースカツ丼が有名で、私はいつも「大の特盛」(編注:裏メニュー。お店が認めたお客さんのみ完食を条件にオーダーできる)を食べています。

小松さんが決まって注文するという「ソースカツ丼(大の特盛)」。カツの下には千切りキャベツが詰まっている。カツを小皿に移動させてキャベツから先に食べる「ベジファースト」が小松さんのマイルール

――思わず笑ってしまうほどの大盛りですね。

小松さん:それが意外にもサラッと食べられるんですよ。というのも、中に千切りキャベツがたっぷり入っているのであまりもたれないんです。とんかつ定食みたいな感じですね。

顔のサイズほどもある器は「すり鉢」。「最後のほうは食べづらいので、ちょっと長めのスプーンを提供してくれるんです。きれいに食べ切れるための心配りがうれしいです」(小松さん)

とはいえ、初めて注文した時は、1kgくらいだろうと高をくくっていたので、それをはるかに超えるサイズのカツ丼が運ばれてきて驚きました(編注:推定サイズは2kg以上)。何とか完食すると、お店の方が「すごいね!」と褒めてくださり、とてもうれしかったんです。それまで「まだ食べるの?」と呆れられることはあっても、褒められたことはなかったので、おいしくて、楽しくて、褒められるんだ! と。器に残った最後のお米1粒を食べたときの達成感は今でも忘れられないですね。

――素敵な思い出ですね。そういえばこのソースカツ丼、盛り方も美しいような……。

小松さん:そうなんです! こんもりと丸く盛られていてビジュがいい。

デカ盛りのお料理って量もあるから盛り付けが汚くなってしまいがちなんですが、デカ盛りでも美しくあってほしいというのが私の中では重要なポイントで。写真映えもしますし、収まるところにきちんと収まっている料理が好きなんです。一つのプレートに彩りよく配置されていたり、器の上に絶妙なバランスで組み立てられていたりするとテンションが上がります。

このソースカツ丼は特に横から見ると本当に綺麗で……。「この山を見よ!」みたいな、こんもり感が見たくてお店に通っています。

――他に、デカ盛りグルメを満喫する上で「あるとうれしいこと」ってありますか?

小松さん:お店の方のホスピタリティーでしょうか。ぽん太さんも素晴らしくて。全てのカツに満遍なくソースがかけられるよう追加用のソースを付けてくださったり、山盛りのカツを崩さずに食べられるよう取り分け用の小皿をくださったり。心配りが行き届いているのがうれしいんです。

カツを一時的に置いておくための小皿と、別添えの追いソース。また、トッピングされた紅生姜は後半に食べると食欲が回復するのだそう

デカ盛りは「お店とお客さんとの信頼関係」で成り立つ

――お話をお伺いしていると、「ただデカ盛りの料理が食べられればいい」わけではなく、盛り付けの美しさや細かな気配りなど、お客さんへのホスピタリティーを重視されている印象です。

小松さん:そうですね。単純なことなのかもしれませんが、店員さんの「いらっしゃいませ」の声や表情が心地よかったり、味だけでなく量やビジュアルにもこだわっていたり、味変できる工夫をしてくださっていたり(編注:ぽん太では味海苔や生卵を追加オーダーできる)。そんなホスピタリティーがあると、こちらもうれしくなって、また来たいと思えますよね。

――ホスピタリティーと言いつつ、大食い番組などでは、お店と出演者がバチバチのバトルを繰り広げるような演出もよく見ますよね。「これは無理ですよね?」と提供されたデカ盛り料理に対抗心をメラメラ燃やすフードファイターみたいな。 

小松さん:私は自分のペースでおいしく和やかに食べたいですね。そして、そういう雰囲気のお店を選んでいるかもしれません。

でも、「本当に食べられるの?」とお店の方に聞かれることはよくあります。そういうときは、最初は「普通サイズでいいので2つください」とお願いして、次に行ったときに3つ食べるんです。私の中では「3個の礼」と呼んでいて。

――(笑)。

小松さん:そもそも、デカ盛りはお店とお客さんとの信頼関係で成り立つものだと思っているんです。お店の方はたくさん食べてほしいという思いでお値段を抑えながらもデカ盛りにしてくれているわけですから、残さずきちんと食べたい。私自身も、お店の方にその思いが伝わるよう気をつけています。デカ盛りメニューに挑戦したお客さんが食べきれず残してしまった、みたいなニュースもたびたび見ますが、そういう嫌な意味でデカ盛りが広まってほしくないですね。

「声優界の大食い女王」が通うお店の特徴

――ぽん太さんのように素敵なデカ盛りメニューがあるお店をどのように見つけているのでしょうか。小松さんの「お店選び術」を教えてください。

小松さん:「駅名+デカ盛り」でネット検索することが多いですね。あとは、SNSで同業者の方やファンの方に教えてもらったり、「自分は食べ切れないから挑戦してきてよ」と言われたり、「一人で食べ切れないから一緒に行こう」と誘われたりすることもあります。

――何度も通っている理由はなんなのでしょうか?

ときどき、東京から1時間くらいで行ける関東近郊へ遠征します。思い立ったらすぐに行けるように、行きたいお店はリストアップをしているんです。デカ盛りグルメを目的に遠征して、ついでに周辺を観光したり、近くの山を登ってみたり。たくさん食べる分、体を動かしてカロリーを帳消しにしたいという気持ちもあって(笑)。元々インドア派だったんですけど、デカ盛りグルメがきっかけでアウトドアになった気がしますね。

――お店を開拓するときに意識して見ているところがあれば教えてください。

小松さん:時間に追われずおいしく食べたいですし、とにかく残しちゃうのが怖いので、たとえチャレンジメニューをオーダーとしたとしても、時間オーバーを気にしなくてもいい、お金を払えば最後まで食べられるお店だと安心して行けます。

――ぽん太さん以外で通っているお店をいくつか教えていただけますか?

小松さん:魚介豚骨系のつけ麺がメインの「麺屋武蔵 武仁(東京・秋葉原)」は、事務所から行きやすく、一番通っているお店かもしれません。SNSで「食べました」って投稿すると、「ご来店ありがとうございました。次の新メニューは◯◯頃にスタートです」と返信をくださるんです。そのやり取りがあたたかくて、お客さんを大事にしているんだなというのが伝わってきます。味変用の調味料が充実していて、季節ごとの限定メニューも凝っており、お客さんを飽きさせない工夫がたくさんあるのも特徴です。

数多くのフードファイターから愛されている「本家絶品! 煮込みカツカレーの店(千葉・幕張)」は、スプーンでほぐせる程やわらかい煮込みカツが有名。これが、すごくおいしいんです。店員さんのキャラクターがすごく良くて。それに、カロリーカットができるフライヤーを導入するなど、お客さんに喜んでもらおうという気持ちを常に感じるお店です。デカ盛りのメニューが有名なのですが、通常サイズのメニューも豊富で、デカ盛りを食べない人とも行きやすいのがうれしいです。

銀座にありながら、ランチ時は1.5kgのチャーハンが1,200円でいただけるのが「中華名菜処 悟空(東京・銀座一丁目)」。ここはチャーハンメニューが毎週変わるので、いつ行っても違う味が食べられます。副菜のザーサイも山盛りなので、チャーハンの味に飽きても味変し放題。500円で持ち帰り用のパックを購入できるので、デカ盛り初心者の方でも挑戦しやすいお店だと思います。

「たくさん食べるね」と言われるのがイヤだった

――ここからは小松さんとデカ盛りグルメの出合いを掘り下げていきます。いつ頃からたくさん食べるようになったのでしょうか? 

小松さん:昔から食べる方ではあったのですが、それを再認識したきっかけが、事務所に入ってすぐの頃、自己免疫性の疾患に罹ったことです。食欲も湧かない状態から回復し、最初に白米を食べたとき、おいしさのあまり感動で涙が出るほどだったんです。

「もうごはんを食べることはできないかもしれない」とさえ思っていたので、ごはんを食べられたことで生きている実感が湧いてきて。「これからはおなかいっぱいおいしいものを食べて、いつ死んでもいいように生きよう」って思いました。

以前会社員をしていた頃は、「たくさん食べるね」って言われるのが恥ずかしかったんです。だから、お昼時になるとオフィスをそそくさと抜け出し、「富士そば」である程度お腹を満たしてからお弁当を買って、オフィスに戻ると、今買ってきましたという体を装ってお弁当を食べたりしていました。同じお弁当を2個買って、1個をゆっくりと時間をかけて食べているふりをしたこともあります。

でも病気を経験し、食べる喜びを知ってそういう悩みから解き放たれました。

――そこからいきなりお店のデカ盛りグルメに挑戦したのですか?

小松さん:おいしいものをいっぱい食べたいと思っても、自分の胃の容量が分からないので、まずはわんこそばのお店に行き、自分がどれくらい食べられるのかを試してみたんです。友人が60杯くらいのところ、私は130杯食べて「やっぱり自分は人より食べられるのかも!」と(笑)。

その後、岩手の「全日本わんこそば選手権」にも出場して203杯を完食。「2kgは食べられる」と自信を持つようになり、いろいろなお店のデカ盛りグルメに挑戦し始めました。

――自分の中で1日どれくらいの量を食べられるという目安はあるのでしょうか?

小松さん:お仕事がある日は1.5kg、休日は2kgまで。最高で3kg食べたことがあるのですが、そのときはもう動けませんでした。ただ、不思議なもので1週間くらいするとまた食べたくなるんですけど(笑)。

――お話を伺っていると、大食い界隈の人たちによくある「記録を更新したい」という気持ちよりは、おいしく食べたいという気持ちが大きいのかなと感じました。

小松さん:そうですね。おなかいっぱい食べることはなによりの幸せです。最近は「すごい食べる人」として知られるようになったので、本当楽になりましたね。いろいろな方々とSNSでデカ盛りグルメの情報を交換するのは楽しいですし、そのおかげでお店で声をかけてくださったり、声優界の大先輩から「よく食べる子」と覚えていただけたりしたこともあります。そう考えると、悩みから解放されるだけでなく、世界も広がったような感じです。

お店を持ったら「デカ盛りお子様ランチ」を作りたい

――もしご自身でデカ盛りグルメのお店を経営するとしたら、どういうメニューを出したいですか?

小松さん:大人のデカ盛りお子様ランチを出したいですね(笑)! ピラフ、オムライス、ハンバーグ、コロッケなど好きなデカ盛り料理を組み合わせて、自分だけのお子様ランチを作れたら楽しそう。

ワンプレートの中にいろんな味があるから飽きにくいし、何より「好きなものをたくさん食べたい」という夢が詰まっている。目で見てもワクワクして、食べてもワクワクしそうですよね。

――聞いているだけでワクワクするメニューですね! 最後に、小松さんにとって「デカ盛りグルメ」とはどんな存在なのでしょうか?

小松さん:生きる楽しみですね。デカ盛りグルメを食べるために、他のことをがんばれるから。

「今日もおいしいご飯が食べられて幸せだったな」「明日は何を食べようかな」って考えているときが一番ワクワクしますし、今はそれ以上の幸せはないよなと思っています。

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【取材先】

ごちそう家ぽん太 八丁堀店

住所:東京都中央区八丁堀1-5-2 はごろもビル B1F

取材・文:花沢亜衣
写真:関口佳代
編集:はてな編集部