新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、人の流れが戻ってくる一方で、スタッフの人手不足により、時短営業を続けたり、休業日を増やすなどの状況に追い込まれている飲食店も多いようです。
「スタッフがすぐ辞めてしまい困っている」「そもそも求人を出しても集まらない」と頭を抱えている飲食店経営者に向けて、その要因や解消のためのアイデアを飲食店経営者兼コンサルタントの山川博史さんに聞きました。
こんな人におすすめ
- 現在、ギリギリの人数のスタッフでお店を回している人
- 効果的な求人方法やスタッフを定着させる秘訣を知りたい人
- 少ない人数でもお店を回せるよう、業務効率化を図りたい人
- これからの時代の・飲食店マネジメント協会
代表理事 山川博史 -
1971年生まれ。複数の会社経営に関わり、一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会【これマネ】の代表理事として、採用・育成・定着・自走をテーマに、飲食店向けeラーニング【これマネ教育DX】を活用した指導を行っている。著書に『1店舗目で成功したオーナーはなぜ2店舗目で失敗するのか』『これからの飲食店マネジメントの教科書』などがある。
Webサイト:これマネ教育DX
Twitter:@yscrewproduce
Instagram:@yamakawahiroshi
- 今、飲食業界の人手不足が深刻?
- 人手不足が飲食店にもたらすデメリット
- 飲食店で人手不足が起きる要因
- 人手不足を引き起こしてしまうマネジメントの問題点とは
- 飲食店の人手不足の解決策
- まとめ:経営マネジメントや働く環境を見直し、人手不足を解消しよう
今、飲食業界の人手不足が深刻?
コロナ禍以前から、飲食店は慢性的な人手不足に悩まされてきましたが、コロナ禍以降、その問題がより深刻になっています。飲食店に特化したリサーチサービス「飲食店リサーチ(※株式会社シンクロ・フード調べ)」が2023年1〜2月に行ったアンケート調査「飲食店における人材確保の現状」によると、4割超の飲食店で人手が不足しており、そのうちの84.3%が「アルバイト・パートが不足している」と回答しました。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、行動制限が緩和されたことでマーケットは回復しているように見えますが、「(2023年6月現在)まだ完全にコロナ禍以前の状況には戻っていない」と、山川さんは言います。
平日夜の売上が伸びなかったり、来客が週末に集中したりするため、経営者はスタッフのシフトを調整しにくい、あるいはシフトを削らざるを得ない状況にあります。その結果、スタッフはシフトがより安定した勤務先を選択するため、アルバイト先を変えてしまうのです。そして、お店側はさらに人材不足になる……といった悪循環が続いています。
人手不足が飲食店にもたらすデメリット
山川さんによると、飲食店にとっての人手不足は主に4つのデメリットをもたらすといいます。
1. 店舗が回らなくなる
人手不足によって通常営業ができず、時短営業や臨時休業せざるを得ない状況に陥ることもあります。お店を開けられないことで既存のファンが離れてしまえば、経営悪化にもつながります。
2. 顧客サービスが低下する
スタッフが足りなくなることで、料理の提供時間が遅くなる、案内や会計までの時間が長引くなど、顧客を待たせる時間が増え、サービスの質が低下してしまいます。
3. 新人教育が進まない
お店を回すだけで手一杯の状態だと、新人教育にかける時間が確保できません。人材が育たなければ、いつまでも既存スタッフの負担が減らず、新人従業員も「何も教えてもらえない」「ここで働いていても得られるものがない」と感じ、離職につながる可能性が高まります。
4. 採用コストがかけられない
時短営業によって売上が捻出できなくなると、採用にコストがかけられず、人手不足を解消できません。そのため、労働環境が悪化し、ますます悪循環に陥ります。
飲食店で人手不足が起きる要因
こうした人手不足が起きる背景には、これまでも認識されていた「業界全体の課題」に加え、コロナ禍や物価高騰といった「外的要因」、さらには経営者のマネジメント面やパワハラ・セクハラといった「内的要因」が、それぞれ影響しています。
1. 業界全体の課題
業界全体の課題として、まず、スタッフの負担が大きいことが挙げられます。
例えば、休みが不規則、深夜営業や24時間営業をしている、仕込みや片付けなど営業時間外の業務が多い、人手不足をカバーするために管理職の仕事が増える……など、さまざまな理由でスタッフが長時間労働になりやすく、肉体的・精神的な負担も大きい傾向にあります。
また、他業種に比べて報酬や待遇に魅力がないこと、クレーム対応・過剰なサービスによるストレスも課題です。こうした課題から飲食業界で働くことにマイナスのイメージが広がり、いっそう採用が進みにくくなっています。
2. 外的な要因
コロナ禍で「時短要請」や「酒類提供の制限・禁止」を余儀なくされ、制限期間中、多くの飲食店が休業に追い込まれました。これによって売り上げが大きく落ち込み、異なる職種へ転職する人もいます。
2021年3月に発表された、野村総合研究所による調査では、コロナ禍でシフトが減ってしまったパート・アルバイトのうち、女性で5割、男性で6割が「新しい仕事を探したい」と回答し、うち約8割が現在と異なる職種への転職を希望、または許容しているというアンケート結果が出ました。
規制が解除され人の流れが戻ってくると同時に人手不足の割合も上昇していますが、一度流出した人材が戻らず、再び人手不足が経営課題として浮上するお店もあります。こうした通常営業に伴う人手不足に加え、コロナ禍で定着したテイクアウト・デリバリーに要する新たな人材不足も問題となっています。
3. 内的な要因
飲食店経営者のマネジメントがうまくいっていないという内的要因も、長期的に見ると人手不足につながっていると山川さんは話します。
店舗運営には、採用・育成・定着・自走の4つのフェーズがあります。人材を採用して育成し、定着させ、最終的にはスタッフ自身で考え行動していける、自走できる組織にしていかなければなりません。
そのためには「人を育てる」という意識が重要です。これまでは、業界的にも「働きながら見て覚えろ」という文化がありましたが、時代が変わった今、従来の方法ではパワハラに該当する場合もあります。採用から自走までのプログラムや組織全体の雰囲気づくりが重要であることを自覚し、今のマネジメントに問題がないか見直す必要があるのです。
人手不足を引き起こしてしまうマネジメントの問題点とは
それでは、離職が相次ぎ、人手不足を引き起こしてしまうマネジメントとはどういったものなのでしょうか。山川さんは、以下の3つを要因として挙げています。
1. スタッフ間の基本ルールがない
新しく採用したスタッフが初めて勤務する時は、少なからず緊張や不安を抱えているため、まずは職場で安心感を得られることが重要です。例えば、アルバイト初日に周囲からあいさつもなく、いきなり仕事を任せられるような職場では、安心感を得ることができません。
まずは店長自らあいさつしたり、一緒に働くスタッフを紹介したりと、歩み寄る姿勢が必要となります。
ほかにも、日頃から「誰かと話すときは足を組まない、腕を組まない」など、職場の雰囲気をつくるための基本ルールを整えておくことも大切です。せっかくいいムードがつくれても、頭ごなしに注意されるとその雰囲気が崩れ、全体のやる気が削がれてしまいます。
2. 指示が曖昧
お客さんをお出迎えする方法、料理の運び方、掃除の仕方など、それぞれのオペレーションに明確な基準がないことも、長期的に考えればスタッフの離職に影響します。「ちゃんとやっておいて」という指示だと、「ちゃんと」がどういう状態を指すのかが分からず、働き手はストレスを感じます。
基準の示し方については、例えば「料理の運び方」「テーブルの拭き方」など、それぞれをベテランスタッフにやってもらい、それを動画で撮影して共有する方法もあります。昔は働きながら、先輩がやっている姿を見て覚える文化でしたが、今は世代ごとに価値観が違うため、指導方法も一緒に働くスタッフに合わせて変えていく必要があります。
3. 将来性が感じられない
「ここで働いていても将来が見えない」「2〜3年後もあまり成長していないだろう」など、将来の見通しが立たないとスタッフは定着しません。「ここで働くことによってどんなメリットが得られるのか」「今の仕事が自分の将来にどう影響するのか」を明確にしてあげることが重要です。そのため、スタッフごとに目標を設定したり、評価制度を整えたりする必要があります。
飲食店の人手不足の解決策
ここからは、人手不足を解決するため、求人の出し方や採用のコツ、離職率を減らすマネジメント術など、具体的な方法を8つに絞って紹介します。
- まずはスタンダードな求人誌で反応を見る
- 店内スカウトやリファラル採用を使いこなす
- SNSを使ってお店の雰囲気を発信する
- 応募から面接までの時間を短縮する
- 報酬・待遇を見直す
- スタッフの育成方針を明確にする
- デジタルツールを活用し業務を効率化する
- 人手不足解消のためのLINE公式アカウント活用術
1. まずはスタンダードな求人誌で反応を見る
求人広告の出稿には、求人誌への掲載などアナログな方法と、WebサイトやSNSを使ったデジタルの方法があります。山川さんは、まずはフリーペーパーなどスタンダードな求人誌に掲載し、反応を見てみることがおすすめだといいます。
この媒体で合っているか、このエリアでニーズがあるかなど、まずは反応を見ます。その上で、店頭の張り紙やビラの設置もしましょう。
2. 店内スカウトやリファラル採用を使いこなす
スタンダードな求人誌のほか、山川さんがおすすめするのは、店内スカウトとリファラル採用(自社の社員の友人や知人に紹介してもらう採用方法)です。
スカウトについては、お店に来ているお客さんであれば、お酒の飲み方や食事の仕方、ビジュアル、人となりが分かります。お客さんの方もお店のことをよく知っているので、気になる人がいれば声をかけてみた方がいいですね。
「今アルバイトを募集してるんですが、知り合いにアルバイトを探してる人はいませんか?」「できれば●●さんみたいな人がいいんですけど」などと声をかけると、「私でもいいんですか」と決まるケースがあります。本人が難しくても、ご家族でアルバイトを探している人を紹介してくれることもあります。
リファラル採用では、紹介してもらった人を食事に招待したり、紹介してくれたスタッフにも成功報酬として採用サポート費を渡したりしましょう。社内のメンバーみんなで取り組める方法です。
3. SNSを使ってお店の雰囲気を発信する
求人を見た人は、お店の雰囲気を詳しく知るために検索します。そのため、お店の詳細や働いている人たち、職場の雰囲気を伝えられるSNSやオウンドメディアを整備しておくことが大切です。例えば「地方出身者が多数います」といった、働いている人たちのプロフィールを載せて「ここなら自分も活躍できそうだな」とイメージできるような情報を提供するといいでしょう。
また、SNSは、業態やアプローチしたい年齢層に合わせて使い分けるのがおすすめです。例えば、若年層に向けて発信したい場合、カジュアルなお店の場合はInstagram、40代・50代向けの落ち着いた雰囲気のお店であればFacebookなどです。
ただ、情報発信することに苦手意識を持つ経営者もいるかもしれません。そんな人たちは、「まずは自分たちのキャラクターを分析することから始めてみてほしい」と山川さんはいいます。
例えば、自分たちの職場が「にぎやかでコミュニケーションが活発」というよりも「落ち着いていて黙々と料理を作る」という雰囲気であれば、「本格的な料理を覚えられます」や「真面目な料理人が丁寧に指導します」といったキャッチコピーをつくれそうですよね。
自分たちが得意なこと、苦手なことを分析し、第三者からどう見えているのかが分かれば、おのずと似たような雰囲気の人が集まるはずです。お店に興味を持った人に、「おもしろそう」「楽しそう」「勉強になりそう」と思ってもらえることが重要です。
4. 応募から面接までの時間を短縮する
求人への応募があったら、まずはすぐにカジュアルなオンライン面談をセッティングするのがおすすめです。アルバイトの採用では、面接当日に応募者が来ないケースもしばしば。返答までの期間が短いほど、面接にもつながりやすくなるため、スピード感を持って顔を合わせる機会をつくりましょう。
最初の面談では、応募者の顔と雰囲気を見るだけでOKです。自分たちのチームになじみそうか、デジタルツールが使えるかどうかも予測がつきます。大事なのは、まず一度顔を合わせて話すことです。チームになじみそうだと感じたら、お店へ招待したり、店舗での面接をセッティングします。
その際にも、一言添えることが重要です。 例えば、オンライン面談の前に好きな飲み物を聞いておき、「では、用意して待ってますね」と伝えてみてはいかがでしょう。ささいなことですが、こちらが準備して待っていることを伝えると、応募者側も「行かなきゃ」という気持ちになります。リアルの面談に来ていただけるような導線を、しっかりつくっておくことが大切です。
5. 報酬・待遇を見直す
スタッフにできるだけ長く働いてもらえることも、人手不足解消には重要です。
まず、既存のスタッフに対しては、給料や待遇が業務量に見合っているかどうかを見直してみましょう。給料の見直しが難しい場合は、まかないの提供など待遇面の改善に取り組んだり、福利厚生を見直したりしてみることが必要です。
夜間のシフトを募集する場合は「晩酌付・まかないあり」、主婦に対しては「扶養控除内で働けます」など、ペルソナに合わせたニッチなワードを入れるのもおすすめです。
6. スタッフの育成方針を明確にする
目標設定や評価制度を明確にすることで、将来の自分の姿や得られるスキルがイメージでき、給与以外の働くメリットが明確になります。これにより、スタッフの定着率向上やリファラル採用の活発化にもつながります。
「俺の言う通りやれ」というマネジメントでは、スタッフはただの作業員にしかなりません。言われたことしかできなくなってしまいますし、自分以外でもその仕事ができるなら、その店にいる必要がないと思ってしまいます。私の経験的にも、給料以外のメリットが明確になってないお店は定着率も低いと感じます。
7. デジタルツールを活用し業務を効率化する
今いるスタッフはもちろん、これから応募する人の働きやすさのためにも、長時間労働の解消は必須です。DX化によって、シフト管理や勤怠管理などの効率化を図りましょう。
現在、スタッフ管理ツールやタッチパネル注文、セルフオーダーシステムなど、業務効率化のためのデジタルツールはたくさんあります。どのツールを導入するか迷う方は、まずは決済システムとモバイルオーダーの導入がおすすめです。
今後、現金決済しかできない状態で店舗を運営していくのは難しいと思うので、キャッシュレス決済システムを導入しましょう。また、スタッフ育成においてもデジタルツールを使うことで、効率化が図れます。
オーダー方法については、やみくもにDX化するのではなく、“お客さんとのタッチポイントを増やすためのDX化”という視点が不可欠です。
「これを食べられればいい」という商品依存度が高い業態であれば、食券機を置いて、商品を出すだけでいいと思います。でも、お客さんの滞在時間が長いお店、接客の重要度が高いお店については、デジタルとアナログのバランスが大切です。
例えば、オーダーはモバイルオーダーでとるけれど、商品説明や自己紹介は必ずスタッフが直接行うなど、効率化してできた時間でお客さんとのコミュニケーション量を増やすという意識を持つことが重要です。
また、SNSを使うことでお店以外でのタッチポイントを増やし、コミュニティー化しながらお客さんとの関係性を深めていくこともできます。
私は会員制のお店を経営しているのですが、会員の方々にはFacebookのグループに入っていただいています。そこに毎週、新しいメニューやイベント情報を投稿してタッチポイントを増やしています。飲食店はコミュニティーなので、小さい店であるほど、コミュニティー化した方がいいんです。
8. 人手不足解消のためのLINE公式アカウント活用術
LINE公式アカウントやLINEミニアプリは、来店予約、モバイルオーダー、順番待ち受付・呼び出しなど、スタッフ側にも役立つ機能を搭載しています。山川さんの経営する店舗でも、LINE公式アカウントを積極的に利用し、来店予約や空席情報の公開、今月のメニューなどのお知らせなどを配信しているといいます。
LINEはスマホを持っていれば、大体の方が使っているアプリなので、スムーズに登録まで進められるのがメリットですね。
うちは来店していただいたお客さんに、LINE公式アカウントを友だち追加してもらう「LINEアタック」という取り組みを行っています。従業員に、1日何名のお客さんにアタックして登録してもらったかを報告してもらっているんです。登録してもらえれば、日々のお店の活動や家でできるレシピ情報といったコンテンツ、さらには求人情報も出せますから。
また、店舗内でもLINEのグループをつくり、“報連相”の場として活用するのもおすすめです。社内ミーティングの議事録をノートに上げたり、マニュアル動画を共有したり、気軽にシフトの調整を相談したりすることもできます。
なお、LINEを業務連絡に使用する場合は、面接時などの段階から了承を得るようにしましょう。また、「誹謗中傷やネガティブな表現は使わない」「22時以降は投稿しない」などルールも設定しておきましょう。
まとめ:経営マネジメントや働く環境を見直し、人手不足を解消しよう
人手不足には、業界全体の課題や外的要因、内的要因などさまざまな要因がありますが、まずは経営者がマネジメントを見直すことが改善の第一歩です。お店のいい雰囲気づくりができているか、スタッフを育成する土台ができているかなど、働く環境を再点検してみましょう。SNSを使ってお店の雰囲気を発信したり、店内スカウトやリファラル採用に挑戦したり、これまでの採用方法を見直してみるのも手です。
飲食店は、例えるなら“総合格闘技”。物件の契約や設備投資、食材の扱い、スタッフのマネジメント……やるべきことが多岐にわたり、「これだけやればうまくいく」という方法はありません。飲食店の経営が難しいとされる理由も、こうした面にあります。
でも、だからこそ飲食店で働くことで、将来さまざまなビジネスに転用できるノウハウが学べます。そのことを、仕事を通じて伝えられる経営者がどんどん増えていけば、飲食業界全体も活性化していくと思います。ただ働いて終わり、という時代ではありません。これからは、飲食業界=自分の可能性が開かれる業種として見てもらえるかどうかが重要になってきます。
経営者自身がマネジメントを見直し、飲食業界で働くことの価値を伝えられれば、業界が抱える課題の解決にもつながります。まずは本記事で紹介した解決策のうち、自分のお店でできそうなことから始めてみましょう。
取材・文:渋谷唯子
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト