居酒屋を経営するには、店舗の規模や営業時間などに応じて、資格や許可を取得する必要があります。無資格で営業すると、厳しい罰則が課されることもあるため、必要な資格をしっかり把握しておくことが重要です。
居酒屋経営に必要な資格の詳細や取得方法、届出について解説します。手続きや準備を順調に進め、居酒屋の開業を成功させましょう。
こんな人におすすめ
- 居酒屋を開業、経営したいと考えている人
- 居酒屋経営に必要な資格について知りたい
- 居酒屋経営に必要な申請を一覧で確認したい人
- 萩原洋 フードビジネスコンサルタント
-
有限会社銀河企画において、「特定行政書士」「(一社)第三者承継推進協会認定総合M&Aアドバイザー」「経済産業省推奨知的資産経営認定士」などの資格を活用し、資金調達を中心に中小企業や小規模事業者の経営支援を多数行う。日本政策金融公庫、信用保証協会などを通じた融資、経済産業省や自治体などの補助金・助成金を活用しながら、会社設立、経営改善、事業再生、そしてM&Aによる事業承継までを総合的に支援。自身も会社を運営し、飲食店経営を行った経験から、飲食店の支援を強みとしている。
居酒屋経営に必要な資格は?
居酒屋をはじめ、飲食店の開業には「食品衛生責任者」の資格が必要です。さらに、店舗の規模によって「防火管理者」の取得が義務づけられています。
ここでは、居酒屋開業の第一歩とも言える「食品衛生責任者」と「防火管理者」の資格について解説していきます。
食品衛生責任者
全ての飲食店には、食品衛生法によって各店舗につき1名の「食品衛生責任者」を置くことが義務づけられています。
食品衛生責任者は、施設の衛生管理を統括する立場にあります。主な役割としては、食品衛生の徹底や従業員の健康管理、衛生指導などが挙げられます。
「食品衛生責任者」の取得方法は?
「食品衛生責任者」の資格は、各都道府県の食品衛生協会や保健所が実施している講習会を受講することで取得できます。
講習内容は、「食品衛生学」「公衆衛生学」「食品衛生法」と3科目あり、費用は10,000円〜12,000円が相場です。
講習を約6時間受講した後、当日中に簡単なテストを受けるだけなので、1日あれば資格を取得することができます。講習をしっかり聞いていれば、合格は難しくはありません。
実施会場が遠い、自宅で受講したいといった場合は、オンラインで実施されている講習会を活用してみましょう。
なお、栄養士・調理師・製菓衛生師などの有資格者は講習が免除されているため、申請のみで資格を取得できます。
防火管理者
30人以上が集まる施設には「防火管理者」を1名置くことが消防法で定められています。
「防火管理者」には、火災発生の防止や、火災が起きた際の被害を最小限に抑えるための防火管理業務を計画的に行う役割があります。
「防火管理者」が必要な施設の規模は?
「食品衛生責任者」の資格が必須なのに対して、「防火管理者」は全ての店舗に必要というわけではありません。
従業員を含めた収容人数が30人以上の施設が対象となり、施設ごとに「防火管理者」の資格保有者1名を担当者として選任することが義務づけられています。
また、延床面積によって種類が分かれており、延床面積が300平方メートル以上の施設は「甲種防火対象物」、延床面積300平方メートル未満の施設は「乙種防火対象物」と定められています。
開業する店舗の収容人数や広さによって「防火管理者」の資格が必要かどうか、また、必要な場合「甲種」「乙種」のどちらを取得するべきかが決まるため、店舗の事業計画に応じて資格を取得しましょう。
「防火管理者」の取得方法は?
「防火管理者」の資格は、各都道府県が指定する消防庁、日本防火・防災協会などの講習会を受講することで取得できます。
講習は「甲種」と「乙種」の2種類に分かれ、「甲種防火対象物」は2日間(約10時間)、乙種防火対象物は1日(約5時間)の講習を受講します。
講習の受講料は地域により異なりますが、「甲種」は6,000円〜8,500円程度、「乙種」は1,900円〜7,000円程度です。
調理師資格は必要?
「調理師免許も必要なのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実際は「食品衛生責任者」の資格さえあれば、調理師免許は不要です。
まずは、「食品衛生責任者」の資格を取得しましょう。
居酒屋経営に必要な届出は?
居酒屋を経営するにあたり、まず「飲食店営業許可申請」を行う必要があります。「飲食店営業許可申請」は居酒屋だけではなく、飲食店全般に共通する必須の申請です。
また、個人事業主として開業するときは、業種を問わず開業届出書が必要になります。そのほか、店舗の規模や営業時間、従業員の雇用形態などで追加の届出が必要になることも多々あります。
書類ごとに保健所、消防署、警察署など届出先が異なり、申請期限にばらつきがあるため、事前に必要な書類をリストアップし、期限や提出先を把握しておくと焦らずに済むでしょう。
一例として、居酒屋の開業に必要となる届出を以下にまとめています。計画と照らし合わせながら、必要な届出を確認しましょう。
<必須の届出>
届出の名称 |
届出先 |
対象 |
---|---|---|
飲食店営業許可申請 |
保健所 |
全ての飲食店 |
個人事業の開業・廃業等届出書 |
税務署 |
全ての開業者 |
<店舗によって必要になるもの>
届出の名称 | 届出先 | 対象 |
---|---|---|
防火・防災管理者選任届出書 |
消防署 |
収容人数が30人以上の場合 |
防火対象物使用開始届出書 |
消防署 |
建物や建物の一部を新たに使い始める場合 |
火を使用する設備等の設置届出書 |
消防署 |
火を使う設備を設置する場合 |
深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書 |
警察署 |
深夜0時以降に酒類を提供する場合 |
風俗営業の許可申請手続 |
警察署 |
接待を伴う場合や店内の暗さが10ルクス以下(ロウソクの明るさ程度)の場合など |
<従業員を雇う場合に必要になるもの>
必要な届出 |
届出先 |
---|---|
給与支払事務所等の開設届出書 |
税務署 |
労災保険の加入手続き |
労働基準監督署 |
雇用保険の加入手続き |
公共職業安定所 |
社会保険の加入手続き(法人化する場合) |
日本年金機構 |
開業前から集客戦略を考えることも大切
資格取得や申請と並行して、集客について考えることも重要です。
開業直後は慣れない環境に気力や体力が消耗しやすく、じっくり考える時間が取れないことも。集客方法を事前に決めておくことで、開業後の負担を減らしましょう。
集客といっても方法はさまざまですが、新規の集客と同時に検討したいのが、既存顧客を定着させる方法です。手軽に開設できるLINE公式アカウントでは、一度来店したお客に対して継続的なコミュニケーションを取ることができます。
日本政策金融公庫によれば、軌道にのるまでに半年以上かかる飲食店が6割を占めるという調査結果があります。早い段階で店舗のLINE公式アカウントを開設し、新規だけでなく既存顧客に対する集客計画も進めていきましょう。
まとめ:資格取得や届出は早めにやっておこう
居酒屋経営に必要な資格や許可は、規模や営業時間帯などで異なりますが、「食品衛生責任者」の資格と「飲食店営業許可」の申請は必須です。
その他は、店舗のスタイルに応じて申請などを行い、開業準備を進めていきましょう。開業計画に遅れが出ないよう、必要な資格や届出をしっかり把握し、早めに取得・手続きを行っておくことが大切です。
文:大杉元則
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト